ペットと飼い主がともに幸せに暮らせるよう奮闘する訓練士のお話です。
本書のご紹介
本書の著者は佐藤真澄さんで、ノンフィクション作家、ライターとのこと。
また、佐藤美由紀名義で、ベストセラーとなった『世界で最も貧しい大統領ホセ・ムヒカの言葉』などの著書があるとのことです。
こちらが本書。
こちらは『世界で最も貧しい・・・』。
本書の概要と読んだ感想
本書の主人公は、「北栃木愛犬救命訓練所」の所長である中村信哉さんで、飼い主や他人を”本気で” 噛んだりする「困った犬たち」を専門に扱う犬の訓練士です。
中村さんは高校卒業後、警察犬の訓練所に入所して修行し、独立後は名犬を育て上げて数々の賞をもらっています。
しかし、全国には凶暴な飼い犬に困っている飼い主が多くいること、その犬を訓練する施設が殆どない(多くの訓練施設は引取りを拒否するそう)ことを知り、中村さんは警察犬の訓練から問題犬の更生にシフトします。
ただ、ベテランの中村さんでさえ、預かった問題犬を全て更生させられるわけでなく、2割は凶暴のままとのことでした。
8割も更生させて、その犬だけでなく飼い主にも幸せや喜びを与えただけですごいのですが、直らなかった2割の犬たちについては飼い主には戻さず、中村さんが引き取るそうです。
飼い主に戻してもすぐに誰かを噛んで傷つけるでしょうし、その後は殺処分が待っています。
ならば、そのまま自分が引き取り、せめて天寿を全うさせたいとの思いからですが、普通はできませんよね。
訓練に関しては、最初の1~2ヶ月は特に訓練をせず、見知らぬ訓練所で知らない人間や犬たちが居る環境に慣れさせるそうです。
その間にずっと声を掛け続け、落ち着いてきたら訓練開始。
基本は『人間が望むことを犬が出来たら褒美を与え、できなかったら罰を与える』というもの。
人を育てるときと同じです。
ただ、違うのは『罰のレベル』。
当然、これまで飼い主が叱っても無視してきた犬ですから、中村さんが叱ってもスルーしますので、必要なのは『体罰』です。
鉄拳制裁にてやってはいけないことを教え込むのですが、反対する人もいるとのこと。
まあ、何もしない(できない)外野は、相手を批判するしかありませんからね。
もちろん百戦錬磨の中村さんですから、ちゃんとタイミングと加減をわきまえているので、心にも体にも傷は残さないそうです(心の傷の有無をどう判定するのかは疑問ですが)。
こうして無事訓練を終え、飼い主の元に戻った犬がまた飼い主を噛んだりする、いわゆる『再犯率』は6%弱とのこと。
ものすごく低いですし、再犯を犯した犬たちも再び中村さんの指導を受けると、もう噛んだりすることは無いそうです。
そんな中村さんでも更生させられなかった犬もいます。
「犬は褒めずに叱るだけで良い」としつけ教室で学んだとおりにしたら心を閉ざし歯向かうようになった犬で、飼い主はその後、別のトレーナーから「叱らずに褒めて信頼関係を築け」と言われて実践するものの時既に遅し。
中村さんの手でも更生は出来ず、結局この犬は中村さんが引き取ったそうです。
誰にも心を開かず、餌は人間から与えられるものの、危険なため散歩もさせられず、最期まで檻のなかで独り。
この犬は生まれたこと、生きながらえることに喜びを感じたことがあったのでしょうか。
最期に、エピローグで触れられていますが、中村さんが必要なときに用いる体罰の様子がテレビ放映された時、かなりの批判が寄せられたそうです。(なかには「体罰するくらいなら安楽死させよ」との意見もあったそう ^^;)
著者も言ってますが、ならば犬歯を削ったり、抗うつ剤を与えれば皆が幸せになるのでしょうか。
本当の『悪者』は誰なのでしょうね。
おわりに
色々と考えさせられる内容でした。
本書の巻末に犬を撫でる中村さんの写真が掲載されていますが、キャッチャーがするレガースが脚に装着されています。
どれだけの報酬を得ているのか知りませんがきっと低額でしょうし、かりに高額だとしても朝の5時頃から夜まで、常に噛みつかれる危険性がある職場で働きたいですか。
正直、私には無理ですね。
飼い主の苦しみも分かりますし、安易に殺処分に逃げてはいけないと責任感を感じることは、当然のことではありながも、立派だとも思います。
そして、その受け入れ先として中村さんの愛犬救命訓練所が存在する訳です。
これからも飼い主や中村さんのような訓練士によって、犬たちが幸せに暮らしていけることを願います。
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